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岡山地方裁判所 昭和54年(ワ)790号 判決

原告

村岡勝利

被告

いずみ運輸倉庫株式会社

ほか三名

主文

一  被告いずみ運輸倉庫株式会社、同叶運輸株式会社は、原告に対し、各自金八五七六万四八三六円及びこれに対する被告いずみ運輸倉庫株式会社については昭和五五年一月二七日から、同叶運輸株式会社については昭和五五年一月二九日から、各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の、被告いずみ運輸倉庫株式会社、同叶運輸株式会社に対するその余の請求及び、被告有限会社仏生山運送、同安田火災海上保険株式会社に対する請求は、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告いずみ運輸倉庫株式会社、同叶運輸株式会社との間に生じた分はこれを三分し、その一を原告の、その余は被告いずみ運輸倉庫株式会社、同叶運輸株式会社の各負担とし、原告と被告有限会社仏生山運送、同安田火災海上保険株式会社との間に生じた分は原告の負担とする。

四  この判決の主文第一項は、内金二〇〇〇万円については無担保で、その余の部分については原告が被告らに対し各金一〇〇〇万円の担保を供するときは、その被告に対し仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らに原告に対し、各自金一億五七七〇万円(ただし、被告安田火災海上保険株式会社は金一六〇〇万円)及びこれらに対する被告いずみ運輸倉庫株式会社については昭和五五年一月二七日から、同叶運輸株式会社、同安田火災海上保険株式会社については同年二九日から、同有限会社仏生山運送については同月二六日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  予備的に保証を条件とする仮執行免脱宣言(被告有限会社仏生山運送、同安田火災海上保険株式会社)

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五二年四月二八日午前〇時二五分頃

(二) 場所 岡山市神下一三六番一の国道二号線上

(三) 加害者甲1

(1) 運転者 永久次郎

(2) 車両 大型貨物自動車(以下被告甲1車という)

(3) 右所有者 被告叶運輸株式会社(以下被告叶運輸という)

(四) 加害者甲2

(1) 運転者 北山秀市

(2) 車両 大型貨物自動車(以下被告甲2車という)

(3) 右所有者 被告有限会社仏生山運送(以下被告仏生山運送という)

(五) 被害者

(1) 運転者 原告

(2) 車両 軽四輪貨物自動車(以下原告車という)

(六) 事故の態様

右国道二号線において、右折のため西向きに停車していた原告車に、西進して来た甲1車が追突し、原告車はこの衝突のシヨツクで対向車線に押し出され、折から対向車線を東進してきた甲2車と衝突したもの。

2  責任原因

(一) 被告叶運輸、同仏生山運送は、それぞれ甲1車、甲2車の所有者であり、いずれも自己のために自動車を運行の用に供していた者であるから、自賠法三条の責任を負う。

(二) 被告いずみ運輸倉庫株式会社(以下被告いずみ運輸という)は、以下のような事実から甲1車につき運行利益、運行支配を有しており、自己のために自動車を運行の用に供していた者であるから自賠法三条の責任を負う。

(1) 被告叶運輸と同いずみ運輸との間には基本的な専属的運送契約が結ばれており、被告叶運輸は被告いずみ運輸の指示に基づいて運送を行なつていた。

(2) 被告叶運輸は昭和四九年一二月二〇日に設立された会社であるが、零細企業で直接の荷主はなく、昭和五〇年四月一日より被告いずみ運輸と専属的取引契約を結び、保有する車(一四ないし一五台)のうち一一台を被告いずみ運輸の仕事に専属させていた。

(3) 被告いずみ運輸は一〇パーセントのマージンをとつて被告叶運輸に対して下請をさせており、また被告叶運輸の総売上高の七〇~八〇パーセントは被告いずみ運輸との取引に負つていた。

(4) 被告いずみ運輸は、LPガスの輸送車を五五ないし五六台所有していたが、一般荷役用の車は四ないし五台しか所有しておらず、専属的下請の利用が不可欠であつた。

(5) 被告叶運輸の運転業務は、被告いずみ運輸の要望を充足するよう仕組まれていた。

例えば

〈1〉 被告叶運輸より被告いずみ運輸へ梅田安人が配車係として出向し、同人は被告いずみ運輸の指揮命令に従つて配車をなしていた。

〈2〉 右梅田は、被告いずみ運輸の営業部第二営業課の空いている机を無償で使用して仕事をしていたばかりでなく、出勤から退社に至るまで全て被告いずみ運輸に於いて勤務し、被告叶運輸に立寄ることはなかつた。

〈3〉 運行中の運転手は行先等について、直ちに被告いずみ運輸の指示をあおぐ形になつていた。

〈4〉 被告叶運輸が、被告いずみ運輸に専属的に回してある車については、被告いずみ運輸は自社の車庫を無償で使用させてきた外、大型車は直接被告いずみ運輸で荷を積んだりしていた。

〈5〉 被告叶運輸の運転手は、被告いずみ運輸の仮眠室、風呂を利用していた。

〈6〉 被告叶運輸は、その所有する車を被告いずみ運輸で修理したり、ガソリンを給油することがあり、その代金は運賃と相殺していた。

(6) 被告いずみ運輸においては、従業員である広沢・井上が配車表を作成するが、被告叶運輸の車は被告いずみ運輸の輸送のため待機している(専属的にまわしていた)ので、これに応じて配車計画をたてることが可能であつた。

(7) 被告いずみ運輸は、被告叶運輸に対し運転手を指定することがあつた。この場合、広沢と井上が、梅田と交渉して決定した。そして、九州方面への運送ではよく運転手の指名があつた。

(8) 被告叶運輸の従業員は、被告いずみ運輸を親会社であるとの認識をもつていた。

(9) 車両管理費、輸送保険料は被告いずみ運輸の方で掛け、保険を掛ける車両については、いずみ専用車の番号で特定した。

(10) 被告叶運輸は単価の額の決定には立会つておらず、各単価金額を知るのは額が決まつて被告いずみ運輸からコピーをもらつてからであつた。

(11) 被告叶運輸の車両で、被告いずみ運輸の専属とされている車両は全ていずみ運輸のカラーで塗装され、かつ車体には「いずみ運輸倉庫株式会社」の社名の表示がなされていた。

(12) 被告いずみ運輸は、被告叶運輸ら下請会社の従業員(運転手)を班長制度に組み込んでいた。

(三) 被告安田火災海上保険株式会社(以下被告安田火災という)は、被告仏生山運送との間において、本件事故車両甲2につき自動車損害賠償責任保険契約を締結しており、自賠責保険金一六〇〇万円の限度において自賠法一六条により責任を負う。

3  受傷、治療経過

(1) 受傷 頭蓋底骨折、脳挫傷、頭部外傷に基づく器質性精神障害

(2) 治療経過

〈1〉 昭和五二年四月二八日から同年五月三〇日まで岡山日本赤十字病院入院

〈2〉 昭和五二年五月三一日以降現在に至るまで岡山済生会会総合病院入院(今後も保存的入院治療を要する見通しである)

(3) 後遺症

昭和五四年三月二八日、四肢機能障害、精神機能障害、脳委縮のためベツドに寝たきりで常時付添介護を要するという状態で症状が固定した。(自賠責保険後遺障害第一級三号に該当、身体障害者「脳挫傷による四肢機能の全廃」として第一種第一級の認定を受けている)。

4  損害

(1) 治療関係費 総計六七二四万九六二九円

〈1〉 治療費 六八六万〇四二四円

昭和五四年一〇月三一日までに金六八六万〇四二四円。

〈2〉 入院雑費 五二五万〇六七二円

(イ) 事故時から昭和五四年一二月二七日まで(三二カ月)、一カ月一万八〇〇〇円(日額六〇〇円)を要した。

(ロ) 昭和五四年一二月二八日以降、原告の余命四〇年間(原告は昭和一九年八月一〇日生で、事故当時三二歳、訴提起時三五歳)にわたり入院治療を受ける必要があるのでこの間に要する入院雑費は四六七万四六七二円である。

18,000×12×21.642=4,674,672

〈3〉 付添看護料 五五一三万八五三三円

(イ) 事故時から昭和五二年七月一日までの六五日間は家族が徹夜で付添つてきたが、右は重態時の付添いであるからその付添料相当額としては一日三〇〇〇円、合計一九万五〇〇〇円がその損害となる。

(ロ) 昭和五二年七月二日から昭和五四年九月七日までの七九七日間は職業家政婦を付添人としてきたが、この付添看護料として金五〇三万五五六七円を支払つた。

(ハ) 昭和五四年九月八日以降も職業家政婦に付添を依頼しているが、原告の前記状況からみて終生付添人を要するところ、原告の平均余命四〇年間の付添看護料は次の算式により四九九〇万七九六六円となる。

5,035,567÷797≒6318(1日あたりの平均看護料)

6,318×365=2,306,070(1年あたりの平均看護料)

2,306,070×21.642≒49,907,966

(2) 逸失利益 総計一億一五九五万二四〇〇円

〈1〉 休業損害 一四四〇万円

原告は本件事故当時株式会社村岡組(建設業)の代表取締役であつたが、本件事故前は一カ月金四五万円の収入があつた。

原告は、前記後遺症のためその労働能力を一〇〇パーセント喪失し、また、昭和五四年一二月二七日(提訴時)において三五歳であるから、その就労可能年数は三二年、平均余命は四〇年である。(三二年に対する年五分の割合による新ホフマン係数は一八・八〇六であり、四〇年に対する同係数は二一・六四二である。)事故時から昭和五四年一二月二七日まで(三二カ月)の休業による損害は一四四〇万円である。

〈2〉 将来の逸失利益 一億〇一五五万二四〇〇円

昭和五四年一二月二八日以降原告の就労可能な三二年間に得べかりし逸失利益の現価は、次の算式により一億〇一五五万二四〇〇円である。

5,400,000×100/100×18.806=101,552400

(3) 慰藉料 総計二〇〇〇万円

〈1〉 後遺症確定時(昭和五四年三月二八日)までの慰藉料

人事不省の状態が続いた重傷入院であること、入院期間が二三カ月にも及ぶことに鑑み金五〇〇万円が相当である。

〈2〉 右確定時以降の後遺症に対する慰藉料

第一級の、常に介護を要する後遺症であることに鑑み金一五〇〇万円が相当である。

(4) 弁護士費用 五〇万円

5  結語

よつて原告は被告ら各自に対し以上合計二億〇三七〇万二〇二九円の損害賠償請求債権を有するところ、被告叶運輸から四六〇〇万円(自賠責保険金一六〇〇万円、任意保険金三〇〇〇万円)の支払を受けたのでこれを控除した残金一億五七七〇万二〇二九円の内金一億五七七〇万円(但し、被告安田火災に対しては一六〇〇万円)及びこれに対する訴状送達の翌日である被告いずみ運輸については昭和五五年一月二七日から、同叶運輸、同安田火災については同年一月二九日から、同仏生山運送については同年一月二六日から、各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告いずみ運輸

(1) 請求原因事実第1項の事実は認める。

(2) 同第2項(二)のうち、

(1)の事実は否認する。

(2)の事実中、専属契約を締結した点は否認し、その余は不知。

(3)の事実中、被告いずみ運輸が一〇パーセントのマージンを取つていたことは認めるが、その余は不知。

(4)の事実中、被告いずみ運輸が六〇台近い車を所有していることは認めるが、その余は否認する。

(5)の事実のうち、

〈1〉について、梅田がいずみ運輸に派遣されていたことは認めるが、その余は否認する。

〈2〉〈3〉〈5〉〈6〉の事実は知らない。

〈4〉は否認する。

(6)(8)(9)(10)の事実は知らない。

(7)(12)の事実については明らかに争わない。

(11)の事実中、被告叶運輸の一部の車両には、いずみ運輸の表示がなされていたことは認め、その余は不知。

(3) 同第3、4項の事実は不知。

2  被告叶運輸について

(1) 請求原因事実第1項の事実は認める。

同第2項(一)のうち、被告叶運輸が甲1車両の所有者であることは認めるが、その余は不知。

同第3項の事実は認め、同第4項の事実は不知。

3  被告仏生山運送、同安田火災について

請求原因事実第1項及び同第2項中(一)(三)の事実は全て認める。

同第3、4項の事実はすべて不知。

三  抗弁

(被告仏生山運送、同安田火災)

北山秀市運転の甲2車が、原告車に衝突したのは、永久次郎の脇見運転によつて甲1車に追突された原告車が、対向車線を走行中の甲2車の直前に突如押し出されたためであり、北山としては避譲の余地がなかつた。即ち、本件事故は甲1車運転手永久の一方的な過失に起因するもので、原告仏生山運送及び甲2車運転手北山には何ら過失はない。また、甲2車に構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

本件事故は、甲2車運転手北山の前方不注意という過失に起因する。

仮にそうでないとしても、右北山が制限速度を遵守していれば、衝突時の衝激力はより小さくて済んだはずであり、原告の受傷が極めて重篤な状態に至つたのは右北山の一五キロメートル毎時にも及ぶ制限速度違反という過失に基づくものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因について

1  請求原因第1項の事実はすべて当事者間に争いがない。

2  請求原因第2項について

(一)  被告叶運輸の運行供用者責任

被告叶運輸が甲1車を所有していたことは当事者間に争いはなく、いずれも成立に争いのない甲第八号証の七ないし一〇、乙第一号証の一ないし三四、証人金竹康富の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、証人永久次郎の証言、同金竹康富の証言及び被告叶運輸代表者尋問の結果を総合すれば、同被告が甲1車をその運行の用に供していたことが認められる。

(二)  被告いずみ運輸の運行供用者責任

請求原因第二項(二)の事実中、被告いずみ運輸が一〇パーセントのマージンをとつて被告叶運輸に運送の仕事を回していたこと、被告叶運輸の従業員梅田が右いずみ運輸の事務所において仕事をしていたこと及び、被告叶運輸の車両の一部には「いずみ運輸倉庫株式会社」の表示がなされていたことは当事者間に争いがなく、また、被告いずみ運輸が右叶運輸の車両運行につき運転手を指名することがあつた事実、及び右いずみ運輸が下請業者の従業員を班長制度に組み入れていた事実については同被告は明らかにこれを争わないので、自白したものとみなす。

証人永久次郎の証言及び被告叶運輸代表者井上正幸尋問の結果を総合すれば、被告叶運輸はその保有する車両一四ないし一五台のうち一一台を被告いずみ運輸の仕事に専属させていたこと、従つてその総売上における右いずみ運輸から得る売上高の占める割合は七〇~八〇パーセントにのぼつたこと、被告叶運輸の運転手は被告いずみ運輸で直接荷の積み降ろしをする外、同所でガソリンの補給、自動車の修理をすることがあつたこと、運送先もいずみ運輸の指示に従つていたこと、運転手らは右いずみ運輸を親会社と思うような状況であつたことがそれぞれ認められる。証人金竹康富の証言中右認定に反する部分は前掲証拠に対比し容易に措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上の事実を総合すると被告いずみ運輸は甲1車につきその運行を支配し、その運行による利益を享受していたと言えるから、同被告も被告叶運輸と並んで甲1車を自己のために運行の用に供していた者というべく、自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

(三)  被告仏生山運送の運行供用者責任

同被告が甲2車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(四)  被告安田火災の責任

請求原因第二項(三)の事実につき、当事者間に争いがない。

(五)  被告仏生山運送、同安田火災の免責の抗弁に対する判断

成立に争いのない丁第一号証、第二号証及び証人北山秀市の証言によれば、甲2車の運転手北山秀市は本件事故当時、国道二号線上を車の流れにのつて、制限時速四〇キロメートルのところ時速約五〇ないし五五キロメートルで東進していたものであるが、甲2車の前方約二〇メートルを大型貨物自動車が進行しており、対向車線のセンターライン寄りで右折すべくウインカーを出して待機していた原告車を発見したのは、原告車の停止位置から約一〇メートル手前であつたこと、発見直後、原告車は甲1車に追突され突如対向車線上に押し出され、甲2車と衝突したことが認められる。

原告は北山が前方を十分注意していなかつたため原告車を発見するのが遅れたもので、もつと早く発見していれば本件事故が防げた旨主張するようであるが、仮に北山においてもう少し手前で原告車を発見していたとしても、原告車は右折するべくウインカーを右に出して停止していたに過ぎず、原告車において異常走行が予想されるような特段の事情はなかつたのであるから、北山はそのまま走行したと思われ、そうしたことにつき何ら過失はない。

そうすると北山が一〇メートル手前で原告車を発見したことと本件事故の発生とは因果関係がないものである。また原告は、北山がスピード違反をしていたもので、これが本件発生の一因ないし損害拡大の原因である旨主張する。北山が一〇ないし一五キロメートル毎時のスピード違反をしていたことは前認定のとおりであるが、原告車が対向線上にとび出してきたのは甲2車の直前であつたこと(一〇メートル手前で原告車を発見し、その直後に原告車は追突されとび出してきたのであるから、原告車と甲2車の間は一〇メートルなかつたことは明らかである)からみれば、北山において原告車を避譲しうる余地はなかつたものであり(制限速度内で走行していても避譲し得ない)、そうすると北山及び甲2車の運行供用者である被告仏生山運送には前認定のとおりのスピードで走行している限りにおいては本件事故と因果関係のある過失はなかつたものと認められ、(またスピード違反が具体的に損害拡大にどのような影響を及ぼしたかについては主張も立証もないのでこれを判断することはできないものである。)甲2車に本件事故の原因となるような構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたことは右北山の証言及び弁論の全趣旨によつて明らかである。

よつて被告仏生山運送は自賠法三条但書により本件事故による損害を賠償する責任はないというべきであり、従つて被告安田火災も同様である。

3  請求原因第3項(受傷、治療経過)について

右事実については、原告と被告叶運輸の間では争いがなく、その余の被告らとの関係では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二、いずれも成立に争いのない甲第五号証、第九号証及び証人村岡正則の証言を総合すれば右事実が認められる。

4  請求原因第4項について

(1)  治療関係費 総計三八九六万三二三六円

〈1〉 治療費 六八六万〇四二四円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七号証の一によれば、原告は事故時から昭和五四年一〇月三一日まで治療費として金六八六万〇四二四円を要したことが認められる。

〈2〉 入院等雑費 三一七万三一六〇円

(イ) 事故時から昭和五四年一二月二七日まで(三二カ月)

右入院期間中一ケ月一万八〇〇〇円(日額六〇〇円)の割合による合計五七万六〇〇〇円の入院雑費を要したことは経験則上これを認めることができる。

(ロ) 昭和五四年一二月二八日以降、原告の余命四〇年間分

成立に争いのない甲第五号証によれば原告は昭和一九年八月一〇日生で事故時三二歳、本件訴提起時(昭和五四年一二月二七日)三五歳であることが認められるので、訴提起時の平均余命は四〇年であるところ、今後原告は病院か或いは自宅において療養をするに要する雑費としては、一カ月一万円とみるのが相当であるから、今後四〇年間の雑費をホフマン式計算法(係数二一・六四三)により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、その現価は二五九万七一六〇円である。

〈3〉 付添看護料 二八九二万九六五二円

(イ) 事故時から昭和五二年七月一日までの六五日間

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号証の一、二及び証人村岡正則の証言によれば、事故時から昭和五二年七月一日までの六五日間は原告の家族が原告の付添看護にあたつたことが認められ、右は重篤時の付添として一日三〇〇〇円の割合により合計一九万五〇〇〇円の損害を被つたとみるのが相当である。

(ロ) 昭和五二年七月二日から同五四年九月七日までの七九七日間前掲甲第六号証の一、二及び証人村岡正則の証言によれば、原告は昭和五二年七月二日から昭和五四年九月七日までの七九七日間職業家政婦を付添人としてきたが、右看護料として金五〇三万五五六七円を支払つたことが認められる。

(ハ) 昭和五四年九月八日以降

原告が終生介護を要するのは前認定のとおりである。右付添料としては日額三〇〇〇円が相当と考えられるから、その現価は二三六九万七九九〇円である。

(2)  逸失利益 総計七七三〇万一六〇〇円

〈1〉 休業損害 九六〇万円

いずれも成立に争いのない甲第三号証、丙第二号証の二及び証人村岡正則の証言によれば、原告は中学校を卒業した後、自動車修理、土地造成等の仕事に従事したが、その後土木工事を営む株式会社村岡組(以下「村岡組」という)を設立し、その代表取締役になつたこと、右村岡組は岡山市の公共事業や大企業の下請の仕事をしていたこと、村岡組の役員には原告の父村岡正則とおじの大本経次らが就任していたが、原告以外の者は役員報酬は受取つていなかつたこと、右会社の経理担当者は金田某であつたが、金田は本件事故の後所在が分らなくなり、その他に村岡組の経理を説明出来る者はいないこと、昭和五一年における原告の給与所得は五四〇万円であつたが昭和五〇年四月から同五一年三月までの村岡組の役員報酬は二三一万円であつたから、これを全て原告が受け取つていたとしても二三一万円を超えるものではなかつたことがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実からみると村岡組は株式会社とはいえ、個人の事業と変らない程度の小規模なもので、その経営や収益も必ずしも安定したものとは言えず、昭和五一年における原告の給与所得の額をもつて、今後長年にわたり原告が得るべき収入と速断することはできないものというべく、かかる観点からみると原告の収入としては月額三〇万円とみるのが相当である。

しかして本件事故により、事故時(昭和五二年四月二八日)から本件提訴時(昭和五四年一二月二七日)までの三二カ月間休業を余儀なくされたことは前記のとおりであるから、その間合計九六〇万円の収入を失つたことが認められる。

〈2〉 将来の逸失利益 六七七〇万一六〇〇円

原告の事故当時の月収は三〇万円であり、昭和五四年一二月二八日以降就労可能な年数は三二年間である。前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度によれば原告は終生その労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められるから、原告の将来の逸失利益を新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると六七七〇万一六〇〇円となる。

(3)  慰藉料 総計一五〇〇万円

〈1〉 後遺症確定時(昭和五四年三月二八日)までの慰藉料

原告の人事不省の状態が続いた重傷入院であること、入院期間が二三カ月にも及ぶことに鑑み三〇〇万円とするのが相当と認められる。

〈2〉 右確定時以降の後遺症に対する慰藉料

第一級の常に介護を要する後遺症であることに鑑み一二〇〇万円が相当と認められる。

(4)  弁護料 総計五〇万円

証人村岡正則の証言によれば、本件提訴の着手金として弁護士に五〇万円を支払つたことが認められる。

二  結論

よつて、被告いずみ運輸、同叶運輸は原告に対し、前記第4項(1)ないし(4)金額合計一億三一七六万四八三六円から支払のなされたことを原告の自認する四六〇〇万円を控除した残額八五七六万四八三六円及びこれに対する各訴状送達の翌日であることが記録上明らかな被告いずみ運輸については昭和五五年一月二七日から、同叶運輸については同年一月二九日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の同被告らに対する請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、同被告らに対するその余の請求及び、被告仏生山運送、同安田火災に対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅田登美子)

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